LOG IN

忙しい、は心を亡くす

by orie1166

 1166バックパッカーズを開業する前、上高地の旅館で4年ほど社員として働いていた。上高地は冬は閉山するため、エリア内の旅館も通年のスタッフは我々のような社員が数名いるだけで、あとは期間雇用のバートタイムスタッフばかり。パートさんは毎年、というよりも数ヶ月で入れ替わる。短いひとはゴールデンウィークだけ、なんてパターンも多かった。

 先日、メールで女性から予約が入った。「上高地でお会いしています」とメッセージをいただいたのだけれど、名前だけでは正直思い出せなかった(そもそも、文言から、「働いていた人」か「上高地で働いていた旅館のお客」かも判別ができなかった)。それでも必要事項などはメールでやりとりし、いざ宿泊の当日を迎えた。正直に言うと、マスクをしているし、10年以上前のことだし、お会いしてもわからなかった。でも(働いていたことを前提に)部署を聞くと、「社食で...」。その瞬間、「あーーーーーー、春雨にたらこ混ぜたやつよく出してた人だ、チャーシューも鮭の切り身も食べた。なぜかデザートが付くことがおおくてヨーグルトゼリーとか出てた...」とまざまざと思い出した。ご本人曰く、在職は1ヶ月程度だったそうだけれど。

 まざまざと思い出した、というのは本当なんだけれど、それでも思い出すのはその方の作った食事ばかりで(我々フロント勢は夜は館内を消灯した22時ころにようやく社員食堂にゆけ、その頃には他に誰もいなく、ただテレビを見ながら食事をとるような生活だったので)、正直、その女性とどんな話を交わしたかは全く、全く記憶になかった。それでもその女性は「上高地時代、あなたの言葉に救われましたよ」なんておっしゃってくださり、実はあの頃の自分はけっこう仕事のストレスにまみれて、精神的にいい状態ではなかったことを自覚しているので、ほっとしつつ、どこか不意をつかれたような気持ちだった。

 丁寧に生きたい、出会うひとに丁寧に接したい、と日々思うのだけれども、それには自分の精神衛生が整っていないと難しい。忙しい、とは心を亡くす、と書くように、忙しいと丁寧に生きられない。忙しくなる手前で、心穏やかに丁寧に旅人を迎えたい。

OTHER SNAPS